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ザ・フォッグ (1979年)

- とある港町の怪談話 -

 昨年の夏、一時発売中止になった“ザ・フォッグ”のDVDをamazonで発見し、慌てて購入。

 で、つい先ほど観終えたのだが――
 いや、改めてジョン・カーペンターの凄さを再確認しますた(カーペンター作品は現在も満遍なく好きなのだが、やはり個人的には、初期の作品に大きく惹かれてしまうのであります)
 火事でビデオを焼失して以来、数年ぶり(もしかして10年以上?)の鑑賞となったのだがね。
 もう、どのカットをとっても、いちいちカッコいいんだもん!
 ま、映画のスタイルとしては、近代的なショッカー・ホラーに入るんだろうけどさ。
 プロット的には、むしろ古典的な怪談話の雰囲気なんだよな。
 冒頭に夜の浜辺で、老人の怪談話に耳を傾ける子供たちのシーンがあったりするのだが……
 この映画の観客は、自然とあの子供たちの一人になるのでしょうね。

 草木も眠る、丑三つ時の悪魔の時間――

 怪しく光る不思議な『霧』が、漁船や港街をジワリジワリと覆い隠していく。
 その霧の中から現れるのは、朽ち果てた幽霊船(『帆船』ってトコがミソ)に、カトラスやカギ爪を構えた怨讐の亡霊たち……
 いやぁ〜もうタマランっすよ。
 評価の高い前作“ハロウィン”よりも、個人的にこちらを推すのは、まさにこの情緒の部分。
 ブギーマンもあれはアレで良いキャラなのだろうが……如何せん、慣習としてのハロウィンのイメージが、日本人の私には全くナイもんな。
 つまりあの映画で表現されるブギーマンの不気味さっての、私とアメリカ人とでは微妙に受け取り方が違うと思うんですよ。

 あ、それから、話がちょっとばかしズレるんですがね――
 “遊星からの物体X”が公開当時酷評を受けたのも、今なら何となく判るんですよね。
 “物体X”からカーペンター作品に入った私は、単純にショッカーの演出として感銘を受けたのだけど、やはりこの“フォッグ”や“ハロウィン”を観た後だと、不満の一つも言いたくなるでしょう
 情緒性に欠ける、っつーかね(物体Xは、どっちかっていうと“SF”だからなぁ。その辺はしょうがないのかもしれんが)
   もっとも、その失われた『暗闇の情緒』と引き換えに、特殊メイク及び特撮による凄まじい『破壊の娯楽性』を“物体X”は手に入れたワケですが(この娯楽性とショック演出が、以降しばらくのホラー映画の一般的な指針となっていくのは、否定できない事実である)
 ……とまぁ、こんな風に批判的に書いてはいますがね、“物体X”も私は大好きなのです。
 “要塞警察”や“ニューヨーク1997”から流れるアウトロー・ヒーローのダンディズムは、明らかに“物体X”の方にこそ継承されてますし。

 で、閑話休題。

 とにかく今作の主役である『光る霧』の描写といい、その中から恐怖のカギ爪を振り上げる亡霊たちといい、ホラーなのに凄くスタイリッシュでイカスんだよな。
 「こえ〜」と思うより、「くぅ〜」って唸る事しばしば(ホラー映画に対して、それで良いのか?(笑))
 カメラワークは勿論、編集、音楽、シナリオと、とにかく上手い!
 今や普遍的になった感のあるカーペンター1流のショック演出が、もう全編に冴え渡ってるのだ。
 曲単体で聞くとショボイが、映像のバックで流れると嫌が応でも盛り上がる、監督自身の手によるBGMもサイコーっす。

 さてさて、この映画におけるハラハラドキドキの肝と言えば――
 霧に襲われるのは深夜の0:00から1:00の間に限られており、どうやら亡霊たちは『物理的』に行動しているらしい、という演出である。
 つまり亡霊たちが人を襲うには、ドアや窓をブチ破って侵入しなければならないのだ。
 だからこそ、ドアの隙間から次々に侵入してくる『霧』の描写が、予兆として映えるんだしね。
 で、室内の温度が急激に下がり、次には不気味なカギ爪によるドアのノック音が……
 まさに『闇からの来訪者』である―― くぅ〜(笑)
 次にストーリーを簡単に追ってみると――

 このアントニオ・ベイという港町は、その成り立ちからして呪われていたのである。
 疫病にかかった弱者たちを裏切り、搾取し、踏みにじった上での繁栄――
 にも関わらず、それらの出来事を何も知らない子孫たちが、能天気に創設100周年を祝う記念行事を計画してしまうのである。
 歴史の封印と禁忌による弊害、とでも言えばいいのか……

 そしてその100年祭の前夜、町中で奇妙なポルターガイストが起こり、一隻のトロール船が霧に覆われ消息を絶つ……
 どうやら亡霊たちが海底深くから蘇り、最終的に計6人の街の住民を殺そうとしているらしいのだ(100年まえに、6人殺された事への帳尻あわせ?)

 その因果関係に、いち早く気づく教会の酔いどれ神父。
 感覚的に事件を予見する、灯台にあるラジオ放送局の女性DJ。
 その女性DJの息子は、浜辺で奇妙なモノを拾っており……

 たまらんお膳立てだよな〜(笑)
 特にクライマックスの、教会の中でたたずむブレイクたち亡霊群が、「罪人たちによって作られた教会の結界など、屁のツッパリにもならん」って感じで、キタキター!……なのである(我ながら変な文だ(笑))

 そこで亡霊たちに相対するのが、怨念にまみれた『金塊の十字架』であり、それをブレイクたちに捧げるマローン神父なのだが――これがまた興味深い構図なんだよな。
 つまり、この十字架が『聖』なのか『邪』なのか、よーわからんのだ――その後の展開も含めてさ。
 このテのホラーだと、最後の切り札になるか、まったく効用がないか、のどちらかでしょ、普通?
 しかしそのどちらとも判断出来ないのだな。
 で、そこんトコロこそが、カーペンター的なハードポイルドでもある、とね(笑)
 『罪を背負った十字架』
 ――考えようによっちゃ、これほど本質的な意味でイカスアイテムはない。

 福音は襲われた街の人にではなく、亡霊たちの方にこそ与えられるべきモノなのか?

 この『ザ・フォッグ』という映画――今回は以前観た時より、ちょっと突っ込んで作品が味わえた。
 良い映画とは、本来そういったモノなんだよな……  

2003年2月17日(月) 



ペチャ…ペチャ…
Great scene select


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