第6回 ヒュースケン逃げろ

- 男たちのレイアウト -

 この日記も随分とご無沙汰していたが、その間何をしていたかってーと……
 大河ドラマ新選組に思いのほかハマッテしまい、某巨大掲示板に入り浸っていたのだな(笑)

 ま、くだらないレスも確かに多いんだが(視聴率厨やジャニオタにオダギリオタ、801に単なるアンチ――等など)、時間帯やメンツによってはかなり濃い話が出来るし、実に興味深い情報や知識を貰えたりするのだ。
 で、それはつまりどーいう事かってーと、今回の大河は史実マニアの半分揚げ足取り気味な突っ込みにも、ある程度耐えうるドラマとなっているという事なのだな。
 つまり三谷氏の脚本は、あー見えてかなりマニアックなモノ――歴史オタク的な体裁をなしている、と。
 確かに一見、荒唐無稽な構成に見えん事もない。
 龍馬と近藤が多摩時代に友人だったり、桂が近藤の祝言の席に着いたり、ヒュースケンを近藤が助けようとしたり……
 どう考えても、旧来の解釈ではあり得ない事象のようにも思える。
 しかしよくよく調べてみたら、絶対あり得ない事ではなかったりするのだな(笑)
 勿論そーいった飛躍的な発想の場面には、細かいところでフォローしてあるし、演出も隙がない。
 佐久間象三は近藤や土方の名前は憶えていないし、勿論記録すら取れなかった(しかし象三の息子が新撰組に入隊していた事実もあり、もしかしたらソレへの布石なのかも。史実でも有名な吉田松陰と象三の黒船検分とは、ちゃっかり別の事柄となっているし)
 江戸の道場間での付き合いとして、北辰一刀流と天然理心流は何らかの関係があったかもしれないし、山南と桂は同じ流派故、知己の仲であっても不自然ではない。
 水戸脱藩浪士・芹沢鴨が桜田門外の変において、仮に裏で糸を引いていたとしても、そう無茶な話とも思えず。
 そーいった裏の設定をする事で、史実にもある斉藤一の上方への逃亡にも芹沢一派に一役買ってもらったり……と、とにかく実に巧妙に物語世界が成り立っている事がわかる。
 結局、京都に上洛するまでの近藤の思想的な部分が史実的に明らかになってないからね、どんな連中と親交があってもあまりおかしくはないのだ。
 それが後に敵対する連中であったとしてもだ(むしろドラマ的にはその方が盛り上がるしな〜)

 さらに後々への細かい伏線も、しっかり忘れていないし。
 土方の洋装エピソードなど、その最たるものだろう(あーいうのって観ていてニヤリとせずにはおれんよ)
 で、こういったオタッキーなコダワリをキチンと抑えながらも、連続モノという枠組みに甘える事なく、毎回実にエエ話を語ってみせるのだ。

 先週のヒュースケン逃げろなんて、思わずホロッときちゃったもん。
 近藤、ヒュースケン、土方…それに永倉新八。
 お互いに距離のある連中が、近藤を中心に結束していく過程は観ていて息詰まるものがあり、その舞台劇のような忌憚のない台詞の応酬は、視聴者にある種のファンタジー的期待を予感させ始める……
 決して現実的ではないが、高潔で素晴らしい精神論の帰結、とでも言えばよいのか?
 その男たちの想いはクライマックスにおいて、極めて予想外な映像で結実する。

 それは銃を使わずに、サーベルで敢然と薩摩藩士に立ち向かおうとするヒュースケンであり――
 そのヒュースケンを、ガラにもなく後ろから押し留めようとする土方であり――
 土方とヒュースケンの前で、敵に向かって当然のように刀を構える近藤であり――
 最後にその近藤を庇うように立ちはだかる永倉新八の剣なのだ。

 誰かを守る為に戦おうとする男たち……
 この縦4列の構図は実に美しく、ヒロイズムあふれる名場面といえるだろう。

 そしてヒュースケンの、土方に語った最後の台詞――
 「私はいずれこの国で殺されるだろう……」
 これを聞いた瞬間、もう年甲斐もなくウルウルきちゃったのだな、ワタクシ。
 なぜなら番組冒頭に映った年表で、ヒュースケン暗殺は歴史的事実としてしっかり明示されていたのだから。
 「この“人の良い”オランダ人は、あとどれだけ生き長らえるのだろう?」
 そう思ったらさ……もうなんつーか……
 歴史を俯瞰するってのは、こんなにも冷酷な事なのね……などとね(しかし実に巧みな演出だよな。はなっからいずれ殺される人だと断言していながらも、サブタイトルがアレなんだもん)

 ちなみに趣向は違えど、物語の密度は毎回こんな調子なのだ。
 これほどまでに緻密な脚本を1年続けようというのだから、三谷氏にはつくづく脱帽してしまうッス(つーか、息切れやテコ入れが心配なのだが。視聴率には興味がないが、ある程度取ってくれないと、それはそれで困る(笑)

 まだ語りたい事は山程あるが、今日はここまでにしておこう。

 だってまだこのドラマは、始まったばかりなのだから――
 

2004年2月17日(火) 





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