「うん……」「よっしゃ、おまえの負け」

プラネテス 第3巻 (2004年)

- 月の秘密 -

 今プラネテスのサントラを聞いているのだが……
 いや、やっぱイイわ、コレ。

 Jupiter highwayにCircular style.
 どれも意外に印象深い曲だが、やはり一押しはA secret of the moonだね。
 そう、地球外少女――ノノが月の砂浜で戯れた時にかかったあの楽曲である。
 BGMとはいえ、時間にしてたっぷり5分はあり、実に浸れるッス。

 女性コーラスによる透明感溢れるアレンジ(ほぼアカペラ)は、何ともファンタスティックでSF的イマジネーション大爆発なのだ。

 ノノの輝かんばかりの笑顔が、宇宙服のバイザーの下から窺える――
 ノノの伸びやかな肢体が、真空の宇宙で水を得た魚のように弾ける――

 あの秘めやかな場面を唯一人目撃できたハチに、オレはジェラシーを抱かずにはおれないよ。
 A secret of the moon ――曲名を直訳すれば月の秘密。
 それはまだハチしか知らない、ノノの酷くプライベートな日常の一欠けら。
 しかし人類の先行きを示す、僅かばかりの希望でもある。
 宇宙に溢れかえる様々な放射線のために、無常にもガンで死に逝くしかない老兵――それが現人類。
 ローランドやギガルトはどう足掻こうとも、地球に縛り付けられた存在なのだ(宇宙葬にされた宇宙飛行士の棺が地球に帰還するエピソードも、それを端的に表している)  「俺には只の砂漠にしか見えない」――そう呟くハチも残念ながら、未だローランドたちと同じテリトリーにいるのだろう。
 しかし月(宇宙)で生まれ育ったノノという少女をしり、彼女の秘密のお遊びを垣間見た彼は、先人たちとは少し違う認識を持った筈である。
 彼の今後(木星行き)も含めて、この物語がどう紡がれていくか、非常に興味深いトコロだ(ハチがノノのいる方へ向かって歩みだし、ソレを観たノノがハチに笑顔を向ける――あの画はすごく象徴的な描写だよな)
 もっとも当面の焦点は『ハチとタナベはどうなるか?』――なんだろうーがな(笑)

 ま、男なら誰もが持っているだろう宇宙への憧れを、かなりストレートに物語にしているのがこのプラネテスという作品。
 否が応でも期待は膨らむっす(笑)

 シリーズ通しての出来もすげぇイイし(最近こんなんばっかりや。尋常じゃないで)  これはDVD購入の可能性、かなり大っス!
 

2003年12月23日(火) 




プラネテス 第9巻 (2004年)

- そして巡りあう宇宙 -

プラネテスが遂に終わった……

 後半は序盤と比べあまりにハードな展開となってしまい、そのクライマックスには一抹の不安を覚えたのだが……
 ま、綺麗に風呂敷を畳んでくれたみたいで、ほっと一安心―――ってのが素直な感想だな(笑)
 いやね、こういった純SFな宇宙モノって、日本にはあんまないからさ。
 折角ならキチンと傑作になって欲しいし、DVDとかも購入したいじゃない(笑)
 つか、オレは最終回を観終わった直後、何の憂いもなくamazonで第1巻を予約注文したんだよな〜(やっぱ最後まで観ないと、シリーズ物のソフトは手を出しにくいよ。もうエヴァみたいなのはコリゴリだし、555は結局アレだったし(笑) 後は好きなスタッフの参加作品だとか、何かしらの保険がなきゃね)
 さて、それでプラネテスという作品についての、個人的な感想なのだが――

 正直、よく出来ていると思うよ。
 シナリオも大河内一桜氏が1人で頑張っており、そのお蔭で実に細部まで行き届いた緻密な構成となっている(ちょっと可愛げが無いぐらいだ。ある意味、優等生的というかね)
 全26話の長丁場――破綻は殆どなく、キャラたちのドラマやテーマを連続で重層的に表現していく事で、語り口はかなり深いところまで切り込んでいく――。
 幾重にも張り巡らされた伏線とその様々な結果の形を、まるで答えから辿るアミダくじのように楽しむ事が出来るし、その過程において物語全体を解いていく面白みというのも湧き上がる。
 例えば最終回で象徴的に示されたハキムとノノの、ハチを中心にした立ち位置の意味合い。
 これは件の宇宙防衛戦線のフォンブラウン号テロ事件の意味を明確化し(ハキムはハチの船たるフォンブラウン号で、ノノの街――静の海市を破壊しようとする)、ギガルト〜ローランドといった先人たちの描写に様々な意味合いを添えていくことになる(2人の死を看取ったのがハチとノノというのも、実に興味深い)

 そして最終的には、第7話におけるノノとハチの月面での邂逅にまで遡る――

 ハチはノノの光の道を辿り、ハキムは暗い地の底へと潜っていく……ここまで繋がればイヤでも解るのだ。
 ハチは悩み苦しみながらもノノに照らされた場所で、唯ひたすらに宇宙を目指し――
 ハキムは暗い重力の底でボロボロの肉体と共に、相も変わらぬ信念のまま生き続ける。
 どちらが正しく、どちらが間違っていると断じることなぞ、出来よう筈も無く。
 ただそういった現実(プラネテス的な)が、冷淡に映像の中で提示されるだけ、である。
 そういったSF的なテーマとは別に、キャラクタードラマとしても最終回から明確化していく部分がある。
 結局、このプラネテスという作品は――基本的にハチ、チェンシン、クレアの3人から始まり、そしてこの3人で終わる物語なのだな。

 冒頭で提示される、何かのパーティで写されたらしい3人の楽しげなフォトグラフィー。
 おそらくあの写真の時点では、クレアも他の2人と同じ立ち位置にいたのではないのか?(チェンシンをそれほど嫌いではなく、ハチにコンプレックスも持っていなかった)
 しかし……周知の通りクレアはハチと別れ、エリートコースを息を切らしながらもひた走り、ハチは怠惰に送る日常の中で、自分の夢に諦めを感じ始める。
 そんな中、チェンシンだけがさして苦労も見せずに、予定通りの人生をステップアップしていく。
 で、プラネテス全26話――その間に紡がれるドラマにおいて、3人は様々な経験をしていく事になる。
 挫折、現実、夢、喪失、暴走。
 時にお互いを求め合い、反発し合い、憎み、憎まれ――
 そしてクライマックスにおいて、3人は完全に離散してしまう(精神的にも)
 クレアはハチと同じ匂いをさせながらも、正反対の出自を持つハキムの女となり、ハチの船でもあるフォンブラウンを破壊しようとする――
 チェンシンはそのフォンブラウンの月面落下を、無謀にも貨物船で(ここがポイント)阻止しようとし――
 ハチは、もう1人の自分(第7話中盤のハチ)でもあるハキムに対して、躊躇することなく引き金をひく。
 そして終章――
 刑務所の面会室にて、意外に穏やかな物腰で向かいあう3人。
 彼らの歩んできた道程を確かな時の流れと共に感じる事のできる、最も重要な場面だ。
 交わされる会話も年齢の割には若干青臭さが残るが、ソレもまた良し。
 彼らがまだ人間として完成されてない事の証だろうし、だからこそいまだ未来を感じる事が出来るのだ。
 ここで脳裏にオーバーラップするのは、あの楽しげな3人揃った記念写真……

 そう……まだ終わっちゃいないのさ、な、クレア?
 ――なんてな(苦笑)

 ま、他にもタナベとハチの奇妙な恋愛物であるとか、様々な側面が見て取れるこの物語――
 盛りだくさんな内容が過不足無く描かれており、エンターティメントとしての完成度はかなり高いのでは?

 敢えて苦言を呈すれば、映像的な表現の部分に若干の不満がある……かな?
 谷口監督作品って、いつもそうなんだよなぁ。
 “無限のリヴァイアス”ん時もそうだったし……
 今回のプラネテスで具体的に挙げれば、やはり後半多発するキャラの内省的な描写がね……ちと食い足りないっつーかね。
 もう1人の自分自身と語り合うハチの描写であるとか、宇宙はたくさんのヒトたちが繋がって構成されているとかね、あの辺の描写がそのまんまっちゅーか、正直淡白過ぎるように感じるのだな。
 脚本レベルでは、あの程度の表現で構わんと想うよ。あれ以上詳しく語られても、鼻につくだけだろうし。
 しかし視聴者に届く最終的な情報としての映像においては、もっと重層的で深い意味性を付加してもいいだろう?
 よくいえば突き放したクールな映像なんだろうが、オレには額面通りのありきたりな映像にしか見えんのだ(そのせいでハチの出した哲学的命題の帰結も、すげぇカルイもんになってるし……わざわざチェンシンにその辺を突っ込ませるぐらいだから、スタッフは自覚的なのかね?)
 前述した最終話におけるハキムとノノの邂逅シーンだって、確かにシチュエーションとしては美味しいんだが、表現としては正直安易すぎる画だと思うし(ただこのシーンの対となる第7話のクライマックスは、実に素晴らしい映像だった。やはりコンテや演出の技量の差か?)
 ヒトによってはコレで充分と感じるかも知れんが、オレはもっとハッとするくらいに刺激的で感動的な映像が観てみたいなぁ。
 ……しかしまぁ、コレって贅沢なタワ言なんだろうさね。
 冷静に考えれば、決して悪い出来ではないのだから。
   最後は何となく叩いてしまったがね(苦笑)
 それでもプラネテスは古今まれにみるタイプの連続SFドラマとして、そう破綻もせずに高いレベルできちんと完結したのだから、やはり凄いっす。
 実際そういったメモリアルな意味合いもあって、オレはDVD購入を決めたんだし。

 日本のアニメもやっとここまで来たんだなぁ……

 この感慨は、長い年月をかけてアニメに付き合ってきた人間ならば、尚の事(笑)
   

2004年4月25日(日) 



ハチマキ!
Great scene select


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