このバケモノめ!

X-メン  (2000年)

“ローグの悲劇”と“鋼鉄の刃”

 “X-メン”――やっぱり良いよぉ!
 元々原作が大好きなので多少の贔屓目があるのかもしれないが、それにしたってこの映画はすっごく面白い!

 確かに原作とは違うムードで制作されており、その部分だけを批判する事も出来るのだろうが(むしろ劇中の台詞には、原作を中傷するようなモノまである)、私はそんな野暮な真似はしないっす。
“コミックと映画”――媒体が変わった段階で、表現方法はおのずと変わってくるハズなのだからね。
 それにどー考えても、この映画にウルヴィーの黄色いスーツは似合わないもの(笑)
 このブライアン・シンガーという監督、かなり若い方のようだが、それにしたって作り上げる映像イメージが素晴らしい!
 冒頭のアウシュビッツから始まり、議会客席でのプロフェッサーとマグニートの邂逅、ウルヴィーとローグの出会いと、次々に奥の深い映像を観る側に提供してくる。
 これらの豊かな映像は、まさに映画ならではのもの。
 ――もお、シビレまくりである。

 映画館で観た時は“地味メ”だと思っていたアクションシーンも、観直すと独自のイメージを展開しているのが判り興味深い。
 そうだな……例えば“ワイヤーアクション”の見せ方一つにしても、独特なスタイルを採っているのだ。
 その手の技術の本場である“香港映画”だと、まさに演舞の如きアクションを見せますよね?
 だが、この“X-メン”はそれとは微妙に違っている。
 香港映画が中国拳法をベースにした動きなら、この作品は舞踏会におけるワルツの動きなのだ。
 注意深く観てれば、ワイヤーアクションが“円の動き”を基本にしているのが判るハズ。
 ――それによって映像にある種の“優雅さ”が加わり、尚且つ野獣の持つ敏捷性まで表現しているわけでなのだ。
 クライマックス――花火で埋め尽くされる夜空の中を、優雅に舞いながら飛翔するマグニート。
 対してその獣性を全開にして戦うウルヴァリンとセイバートゥース。
 まるでオペラか何かのヒロインが如く、エレベーターより出現する雷神ストーム(あ、風神でもあるか、彼女(笑))
 一人だけカンフーアクションのミスティーク(ヘリの中で議員を文字通り“足蹴”にするのも、その台詞と併せて観れば、意味合いとしては深い)

 「しかし良くもまぁ、こんなに次々と……」と感嘆するほど、観ていてハッとさせられるシーンの連続なのです。

 そして極めつけは、ローグとウルヴィーの“あのシーン”
 マグニートを倒しローグを無事“装置”から助け出せたのはよかったが、時は既に遅かったのか……彼女の体はピクリとも動かない。
 ウルヴィーは慌てて手袋を取り、素肌を触れさせる事によって己の再生能力を彼女にコピーさせようとする。
 が、それでもローグの反応はない。
 感極まって目の前の小さな頭を頬に擦り付けながら、抱きしめるウルヴィー。

 この時になって初めて観客は“ローグの悲劇”を、具体的に実感する事になる。

 “自由の女神”の手の中で、少女がやっと手に入れた「ちっぽけな自由」
 そう――彼女は死ななければ、このような“優しい抱擁”を直に受ける事ができなかったのだ。
 これには私、正直泣けちゃいましたよ……。
 勿論、その数秒後にはウルヴァリンの能力を吸い取って生き返るのですけどね。
 その刹那の時が、物凄く味わい深いのです。

 ただ単に「少女が死んだから哀しい」では、それこそ映画的に薄っぺらでしょう?

 そしてこの“ローグの悲劇”は“ミュータント全体の悲劇”へとオーバーラップしていく構造となります。

 誰が、すっぴんのミスティークを抱きしめる? 
 誰が“あの”トードとキスをする? 

 ティム・バートンの“バットマン2”も、その“悲劇性”に相当クルものがありましたが、それとはまた違った意味でこの“X-メン”にもヤラレてしまいましたよ(笑)

 ホント、いつかは日本でもこんなヒーロー映画が出来たらねぇ…… 



2001年4月24日(金) 


……
Great scene select


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