みんなで守ってきたんだっ!

銀河鉄道物語 (2004年)

- 松本アニメの乾坤一擲 -

 いや、もう松本アニメには何回裏切られ続けてきたのだろう?

 最近じゃ“ガンフロンティア”がいいとこまで行ってたが、結局後半のオリジナル展開に失敗しショボショボだったし。
 “りんたろう監督版ハーロック”も、結局ダメダメだったもんな――そりゃ画は綺麗だったけどさ(しかし有紀蛍が異様に化粧の厚いババァに見えたのは、オレだけか?(笑))
 “ニーベルング”なんかもそうだけど、難解な話にすりゃ良いってもんじゃなかろうに。
 だって、単純に面白くないだけなんだもん。
 で結局純粋に楽しめる松本アニメって、小〜中学生の頃みた“ヤマト”“旧TV版ハーロック”“999(TV+劇場版第一作)”ぐらいしかないんじゃないのか?(OVAの“ザ・コクピット”は何とか及第点を付けられるんだろうけど……そんなに思い入れるほどオモロかったわけじゃないし)
 しかし何回裏切られても、未だに松本アニメを見続けている友人が1人いてさ――
 そいつが、最近妙に興奮しながらオレに語るわけよ。
 “銀河鉄道物語”は、すげぇ面白い、とな。
 オレはま、「ふーん」って感じで軽く流し聞きしてたのだが(笑)
 だってそいつに教えてもらったガンフロンティアだって、クライマックスはあの通りだったし……
 個人的には“松本イズム”自体が、もう時代に合わないと思っていたからな。
 松本零士存命の内は、金輪際松本アニメ的な傑作など出来ないと断じてたのだ(ひでぇ言い方だが、これってかなり多数の意見なんじゃねぇの?)

 が、しかしその友人は最終回を観ても尚、オレに熱く語りかけるのだ。
 “銀河鉄道物語”は、まぎれもなく傑作であると――
 しかも何としてもオレに観て欲しいらしく、全26話の録画データをわざわざ持ってくる始末。
 よほど自分と年齢の近い――つーか、ガキの頃松本アニメの洗礼を受けた同世代人として、オレと語り合いたいらしいのだ(笑)
 いつもと違う友人の様子に、オレは何となく怯みながらも再生プレイヤーを立ち上げてみる……

 1話〜2話はプロローグ的な話なので我慢しろ、との事なので我慢する(笑)
 実際、かなり妙ちくりんな展開で不安になるが……

 が、しかし!

 その日のうちに第10話まで観てしまったオレって(苦笑)

 正直止められなくなったのだ。
 続きが観たくてしょうがない……こんな気分は松本アニメで初めて体験するんじゃなかろうか?(同じ気分にさせられた作品は、敢えて言えばヤマト第1作目と旧TV版ハーロックぐらいだが、この急かされ方はそれ以上だよ、マジな話)
 結局休日をフルに使って、残りの16話を一気に観てしまったよ(笑)

 面白かった〜すげぇ面白かった〜
 画はあんまり綺麗じゃないが、これはDVDが欲しいぞ。
 何とかならんのか〜〜〜(ちょっと興奮状態)

 さて、少し落ち着いて、冷静に何が面白かったのかを考えてみようと思う。

 物語の構成は大きく二つに別けられる。
 前半は空間鉄道警備隊(通称SDF)に入隊した主人公〜有紀マナブと、彼が配属されたシリウス小隊の仲間たちのビルディング・ロマンスとも言えるのかも。
 毎回ビッグ1と呼ばれる装甲列車に搭乗し、いろんな惑星に立ち寄って様々な事件に遭遇する展開は、ある意味999的旅情すらあり――つまりちょっとイイ話な、一話完結の短編シリーズとなっている。
 当然そこにはやはり999的な訓話めいたテーマなぞもあるにはあるが、あまり説教臭くないところも高ポイント。
 各隊員に順番にスポットを当てながら、主人公マナブを中心としたドラマを実に丁寧に展開する。
 マナブとバルジ隊長、マナブとブルース、マナブとルイ、マナブとセクサロイド・ユキ――(デビッドとの関係だけは、あまりシリアスには描かれてない。だからといってマナブと彼の仲が悪いってワケじゃないのだが)
 バルジ隊長は、殉職した先代隊長〜有紀ワタル(マナブの実父)の元部下である。
 マナブにとっては厳しき上官でありながらも父親代わり、といったところか?(もっともバルジ自身、ハーロックや沖田艦長のように大人として完成されたキャラクターではなく、何処にでもいる未熟な一青年として描かれているのだ。これまた主人公の師としては、魅力的な設定である)
 またバルジ隊長の個人エピソードとして面白いのは、悲恋的な内容もそうだが、1〜2話におけるプロローグのザッピングによって描かれている点である。
 つまり主人公であるマナブのプロローグと対になった――所謂裏エピソードとして表現されており、バルジもマナブと同じく有紀ワタルの息子の1人として描かれている事がわかる(最終話の決戦時にワタルのジャケットと軍帽を譲り受けるあたり、まず間違いないだろう)
 こういった表現としての伏線の生かし方がこの銀河鉄道物語には随所に見られ、緻密なシリーズ構成した園田英樹は実にイイ仕事をしていると言えるだろう。
 ブルースは別名“死神ブルース”とも呼ばれ、唯1人いかなる戦場でも生き残ってきたという、孤高の戦士である(つまり言い換えれば、彼の歴代パートナーは全員尽く死んでいるのだな。例えれば“ハリー・キャラハン”みたいなヤツか?)
 だもんだから新しくパートナーになったマナブに対しては一定の距離を置いて接する事となり、必然的にその関係は険悪なものとなっていく。
 ブルースはマナブを必要以上に厳しく鍛えるのだが、これがマナブのためじゃないのが実にリアル。
 宇宙でパートナーを失う事によって、自分がこれ以上辛い思いをしたくないから、なのだ。
 もっともブルースは後半、そんな自分自身の中に巣食う死神と直接対決をする羽目になるのだが……
 このキャラはその最後も含め、実に作り手の思い入れが爆発していると言えよう(激しくネタバレになるが、俺は「13日の金曜日マカロニ死す」を思い出してしまったよ(泣))
 声を当てている子安氏がノリノリで演じているのも好印象っす。
 で、ヒロインのルイはSDFシリウス小隊のメンバーでありながらも、実はとある共和国大統領の御令嬢。
 性格は勝気で男勝り――新人隊員同士のマナブとはケンカしながらも、次第に彼に心を開いていく――と言った、実に一昔前の典型的なアニメ・ヒロインである。
 とはいえ、ただの典型的ヒロインとしてだけ描かれているワケじゃないのがミソ。
 なんかね〜ツイてないのよ、彼女(笑)
 勝負事にはトコトン弱いみたいだし、クライマックスは救助にきたマナブの目の前でゴニョゴニョだし。
 士官学校は主席で卒業したみたいなのにね〜(つまり成績はマナブより上)
 ちなみに彼女が背負う不運は、デビッドの何気ない幸運さ(コインを使用した運試しによって表現される)と対になってるんだろな、やっぱり。
 次にワタクシの一番のお気に入りでもある、医療用セクサロイド・ユキである。
 ビッグオーのドロシーといい、このユキといい、ロボな女の子ってなんて魅力的に見えるんでしょう(笑)
 ま、冷静に考えれば、スタトレのデータ少佐やブレランのロイ・バッティも同様なんで、女の子とは限らないんでしょうがね。
 アンドロイドとはいえ異様にセクシーに描写されているのも何だし(セクサロイドっちゅーぐらいだから、そういった用途も勿論あるんだろうけどな)、それとは相反するようにユキ自身が人造機械であることにあまりに自覚的なのも、観ていて物悲しいし。
 自分の魂がプログラムに過ぎないのを見越した上で、マナブへの好意を自覚し、その原因を自分のモデルになった1人の女性のパーソナリティに求めるのも、これまたいと哀れなり(おそらくモデルになった女性とは”彼女”なんだろうね。俗に言う松本ワールドにおいては、今まで完全に無視されてきた存在なんだがな〜(笑) しかしそうなるとマナブが”彼”にそっくりという事になってくる。ということはつまり……)
 ま、デビッドは詳しく書かないで端折りますが(笑)――いや、決してつまらないキャラじゃないんですけど、コイツまで書いてたらベガ小隊やスピカ小隊の連中まで書かなきゃならんようになるし……そんな事してたらキリがないっす。
 つまりそんだけ、この作品には大勢の魅力的なキャラクターが登場するんですな。

 こういった感じで各キャラクターの掘り下げがあらかた終わったあたりで、いよいよ物語は怒涛の後半へと突入していく。

 1話から随所に張られていた伏線――
 謎の異空間より出現する巨大戦艦(しかもコイツにはSDFの通常兵装では傷一つ付けることが出来ない)
 そして襲い来る昆虫型スーツを身に着けたエイリアン(中身は植物型知的生命体で、死ぬと紙のように燃える)
 そういった未知の存在と、何度目かの接触を繰り返していた矢先――1人の植物型生命体が、SDFに救難信号を送りつけてくる。
 名前はリフル――ご察しの通り彼女は別次元の知的生命体で、彼女たちの宇宙で猛威を奮っている帝国軍が、マナブたちの宇宙にも侵攻しつつあると告げにきたのだ。
 コスモ・マトリックスというメカニックのパワーを限界以上に引き上げる、特殊ツールを携えて……

 しかしリフルの命を賭した警告は、メンツばかりを気にするSDF特殊情報部によって握りつぶされてしまう。
 やがて襲来する異次元宇宙帝国艦隊“アルフォート軍”――
 コスモ・マトリックスに対応させてないSDF小隊は次々に壊滅していき、残る希望は命令違反で解散させられたビッグ1ことシリウス小隊だけであった――

 ……ここまでで、もう皆さんもお気づきでしょう?(笑)
 そおなんです。
 ぶっちゃけ“宇宙戦艦ヤマト”のリトライなんですな(ユキの設定などは、セルフパロディなんでしょう)
 詳しく書けばヤマト1とさらばヤマトに当たるのかな?(ルイが敵超巨大戦艦に潜入してビッグ1に弱点を教えるあたり、ヤマトよ永遠にも入っているのかも)

 ここで「なぁんだぁ、ヤマトの焼き直しかぁ」――等と一蹴してはいけませんぜ。

 というのも、あのヤマトの物語を今現在において語り直す必然性が、この作品にはきっちりあるんですよ。
 ヘタすると、ヤマト否定の物語になってしまいかねないんですがね(苦笑)
 それはシュラという1人のキャラクターを観ていけば、明確に解るようになっているんだよな(そういう意味ではキーパーソンと言えるかも)
 この“レイラ・ディスティニー・シュラ”という文字通り運命の名を持つ、いかにも神秘的で松本美女ライクな女性――
 銀河鉄道総司令という立場にありながら、どうやらこの宇宙の未来が見えているらしいんですな。
 とにかく彼女は事在るごとに、運命という言葉を口にする。
 そもそも鉄道とは定められたレールの上を、ダイヤグラム通りに進む存在だからね。
 人生の縮図的な意味合いが込められているといっても、過言ではない。
 実際、運命の通りにマナブの兄有紀マモル(やはり古代守なんだろうなぁ)は命を落としますし、当然生き返る事もない。
 しかし彼はタイムワープしてきた弟マナブと再会し、己の死に逝く運命を知りながらも、果敢に足掻き生き続けようとします。
 最後のその瞬間までね――(マナブが持ってきた母親の握り飯を頬張りながら、マモルはたった一言――「やっぱ、うめぇや」と呟き死んでいく。そう、食事とは生きるための重要な行為なんだよな)
 しかしこの時点では、ヒトは運命に足掻らえない存在でしかないのだ。
 というより、ブルースの死までは基本的にそういったスタンスで、物語は描かれていく。
 だがシュラが未来を見通せるのは、この宇宙の事象に限られているらしいのである。
 つまり別次元からの干渉による運命は、まったく見えないのだ。

 次第に運命の女神の立場を無くしていくシュラ。
 クライマックスに至っては、もはや彼女自身で立つ事すら出来なくなり、惨めに床に這いつくばってマナブたちに祈ることしかできないのだ。
 この瞬間――松本世界の女神たちを、本作品はきっぱりと否定してしまったと言えるのかもね。
 メーテルですら鉄郎のリアクションというイレギュラーがあったにせよ、当初の計画通りに機械化帝国に反乱を起こし、運命のままに父と母を失ったのだからね(ちなみに有紀マモルが旅立ちの際乗り込んだ銀河鉄道は、なんと999号。まさに彼にとっては運命の列車だったようで)
 さて、まさに新たな運命を紡いでいく最終決戦――
 希望の星ビッグ1の盾になって全滅したベガ小隊を筆頭に、仲間たちは次々に倒れ、死んでいく。
 そんな絶望的な状況でシリウス小隊は、ビッグ1単機で敵大艦隊に突っ込み、超巨大戦艦に無謀にも真正面から挑むのである(兵装車両とはいえ、ビッグ1はサイズ的にただの列車である。その華奢なシルエットはひどく心もとなく、雨あられのように降り注ぐ集中砲火を、懸命に回避しながら突撃していく様には、観ていてハラハラしっぱなしだ(笑) 直撃一発でジ・エンドだしな)

 ルイは敵戦艦内部から弱点を連絡してくるが、マナブたちとモニター越しに会話しているところを背後から敵兵に撃たれ……
 メカニック主任は腹部に重症を負いながらも、気力でコスモ・マトリックスのシステムを調整し……
 デビッドは敵戦艦内部にてマナブを先行させるために、1人で圧倒的な数の敵兵を足止めし……
 そして遂にはマナブまでもが敵総司令の触手によって、無残にも全身を貫かれ……
 ここから先は語るまい。
 もし少しでも以上の文章で今作に興味が沸いたなら、是非観て欲しいな。
 新世紀における新たな松本節を味わう事になるからさ。
 少なくともさらばヤマトのラストが大嫌いなオレにとっては、最高のエンディングだったよ!

  「あなたのいない未来ならいらない!」

 アンラッキー・ガール〜ルイの偽りの無い魂の絶叫が、大事な何かを呼び起こしていく……


 そうそう、最後に音楽も最高だったと付け加えておくよ。
 青木 望にささきいさおである。
 やはりこの人たちの仕事は素晴らしい!




2004年5月7日(金) 


もしかしたらその女性の記憶の中の、おそらくは深く愛したであろうヒトに、彼は似ているのかもしれない……
Great scene select


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