ブルーサンダー、応答せよ! 発進は許可していない!

ブルーサンダー (1982年)

- Catch you later ! -

 先日、ジョン・バダム監督のブルーサンダーを、アルティメット・コレクションで十数年ぶりに視聴した。

 待望の日本語吹き替えが実は新録で、ロイ・シャイダーを充てているのが羽佐間道夫じゃなかったのは非常に残念!
 確かに原康義も巧いし、悪くは無いがねぇ……
 やっぱ、こちとらの思い入れ(刷り込み)の強さには勝てんのよ。
 何もムリして、5.1chサラウンドで収録しなくても良いのにね。
 ――とはいえ、その他の仕様は実に満足いくものでございました。
 特に特典ディスクにTVシリーズのブルーサンダーが2話収録されていたのは、すんげぇサプライズ。
 音声も放映当時の吹き替えがそのまま収録されており、映画本編よりオマケの方が文句の付けようも無いという(笑)
 ま、内容は映画の使いまわしを多用した、如何にもB級なTVシリーズなワケだが(ヘリポートから発進するブルーサンダーのバンクは、いつもマーフィーが操縦しているし(大笑))
 とりあえず、Aチームを航空警察に置き換えたような軽妙な展開は、それなりに楽しめる。
 ブルーサンダーチームの支援部隊“ローリングサンダー”だとかね、TVオリジナルのキャラクター配置も、組織的な意味で実に納得出来るようになっているし。
 このTVシリーズについては、いずれ別コーナーでレヴューするかもしれんッス。

 閑話休題――
 ここらでオリジナルの……映画版ブルーサンダーの魅力について語ろうと思う。

 まず何はともあれ、ブルーサンダーという攻撃ヘリのカッコよさである。
 クリアなDVD映像は、その渋すぎる機体の鑑賞にはもってこいだね。

 ミリタリーにSFテイストを少々加味したデザインは、実にシャープ且つワイルド。
 漆黒のカラーリングも、そのマシーンが放出している禍々しい凶暴性に拍車を掛けているし。
 ……つまるところ、トコトン“野郎”がミーハーに憧れてしまうように作られているんだよな(笑)
 しかもバットモービルみたいに“実機を作ってしまう”のがハリウッドのスゴイところなんでさ(しかも予備の機体も含めて、都合2機が制作されていたらしい)
 こういう資金のかけ方って、日本じゃありえんからなぁ……オモチャ会社がスポンサーになると、あーいったシブイデザインにはならんし。
 加えてその実機をロス上空で“実際に”バトルさせるのだから、こちとらも開いた口が塞がらん事になる(笑)

 ま、この映画のウリがブルーサンダーというキャラクターそのものであるって事は、企画当初から監督以下のスタッフも重々わかっていたらしく、全編通して実に外連味タップリな映像表現なっているんだよね(朝陽の中から出現する場面といい、ロスの夜間飛行といい、もう笑っちゃうくらいカッコイイ!)
 ムロン、この映画の素晴らしさはそれだけじゃない。

 まずはダン・オバノンによる脚本の妙、だろう。
 ま、オバノンはメイキングで「実際はドン・ジャコビーが殆ど書いた」と語っているがね。
 いやいや、どうして――彼の今作に対する熱い語りを観てれば、これが一種の謙遜であり、メイキングに出演していないジャコビーを気遣っての発言としか思えんのだな(作品歴を顧みれば、両者の付き合いは長いみたいだし)
 何よりもオバノン脚本の良さ……っていうか“癖”が、このブルーサンダーには如実に現れているのだ。
 至極簡単に書けば、「クライマックスの大嘘を描くために、序盤より妙に凝ったリアルなディティールを重層的に描写しながら、舞台のお膳立てをあくまで自然に説得力あるモノへと整えていく」って方法論である。
 つまり荒筋だけ取り上げれば「こんなん、ありえねぇ〜」な展開だが、実際はスゲェ納得しながら観ていられるという(笑)

 典型的なのが、オバノン自らが監督した“バタリアン”だろう。
 ちょっとした薬品会社の事故から始まって米軍の核ミサイル攻撃に終わるという、何ともメチャクチャな展開をシニカルなユーモアを交えながら、いわゆるエスカレートドラマとして実に説得力のある物語に仕立て上げているのだ。
 それは、彼の出世作“エイリアン”も同様だ。
 後半の非現実的なエイリアン出現へといたる序盤からの緻密なディティール描写は、リドリー・スコットの卓越した演出力、ギーガーの奇々怪々なデザインとあいまって、映画史に残る映像となっているのは誰しもが認めるところだろう。

 確かに“スペースバンパイア”みたいに、組んだ監督との相性が良くなかったりすると、オバノンの良さは殺されてしまうようだがね(トビー・フーパーは“悪魔のいけにえ”のように、どっちかというとドキュメント的な臨場感を得意とする監督。オバノンの緻密に構築されたフィクショナルな世界とは、どー考えても相容れんのよ)
 さて、この“ブルーサンダー”である。
 航空課の警官がたった一人で国家規模の謀略に立ち向かい、FBIや軍を相手に戦い、そして何と勝利を掴み取る物語である。
 これだけ書けば、もうあり得ない事この上ないんだがね(笑)
 ここでオバノン一流のディティール描写が冴え渡る。

 まずブルーサンダーという特殊ヘリ(スペシャル)の持つ、驚異的なスペックである。
 F-16すら難なく叩き落すフルオートガトリングガンに堅固な防弾装甲、映像〜音声の驚異的な収集能力に消音飛行モード、緊急回避用ブースト機能に今で言うところのネット端末機能――
 しかもその端末はアメリカ国防省のメインデーターバンクと直結しているのだ。
 ……なんともバケモノじみたマシーンである(笑)
 確かにこれ一機あれば、例え一個人であっても時間制限付きなら大概の事は出来るだろう。
 実際、登場人物の1人がそんな事を呟いているしね。
 ん? ロス市警レベルで、こんなスーパーヘリを所持する事自体がありえねぇ?
 確かにその通りで、だからこそディティールとしての「ロス・オリンピック警備の為」であり、その背景としての「ミュンヘンの悲劇を繰り返さないため」という台詞なのである。
 加えてこのブルーサンダーは軍の新兵器開発の一環であり、オリンピック警備を利用しての実戦テストが本来の目的となれば、アメリカ的なリアリティーとしては申し分なかろうて。
 更に見事なのは、ベトナム戦争でヘリが十二分に活躍できなかったのを踏まえた上での新兵器開発、という部分である。
 そう、ここでベトナム帰還兵のヘリパイロットである主人公フランク・マーフィーとブルーサンダーの関連性……というか因縁付けが、旨い具合に生きてくるのだな。
 ヘリの操縦は超一流だが、ベトナムの地獄を見てきたおかげで酷いトラウマを持ってしまった男――
 それがロイ・シャイダー演じるマーフィーというキャラの基本事項だろう。
 実際マーフィーは自分の精神が酷く不安定な事に自覚的であり、常日頃からタイムウォッチで現実感(リアリティ)を維持しようとしているあたり、既にどーしようもなく病みまくっているとも言える。
 それが原因で妻子と別居を余儀なくされているみたいだし(ただ夫婦間が冷え切っているわけじゃなさそうなトコロがポイント。奥さんが浮気したみたいな台詞はあるが、おそらく原因はマーフィー側にあるのだろう)、ウォーレン・オーツ演じる上司も何かと苦しみ苛立つマーフィーを気にかけているようだ。

 そんなある日――
 彼にとって運命的ともいえるブルーサンダー計画の話が、市長を通して舞い込んで来るのである。
 ――しかも、トラウマの原因となったベトナムでの上官〜コクラン大佐とセットになってね。
 さて、ここでまでくると国家権力に立ち向かうヒーロー像のお膳立ては、ほぼ出来上がったとみて良いだろう。

 ロス市民の人命を何とも思わない政府への怒り――
 謀略の真実を知った事で、気の良い相棒ライマングッドを殺された怒り――
 正気を失いたくない(ヒューマニズムを失いたくない)自分に敵意を見せ、あまつさえ抹殺しようとまでするコクラン大佐(政府、軍隊)への怒り――

 追い込まれたマーフィーは、遂に進化しつつ蘇ったベトナム戦争の悪夢〜ブルーサンダーを駆り、愛する妻のバックアップを得て、ただ1人ロスの大空に舞い上がるのであった……
 昔と違って同僚の警官に攻撃されようと、マーフィーは迷わない(無抵抗の捕虜を殺そうとするコクランを、止める事が出来なかった過去の自分に対するアンチテーゼ)
 結局、己が信じる正義の為には、毒を持って毒を制するしかないのだ(とはいえ、描写的にできるだけ警察官を殺さないようにしているあたりが、マーフィーの行動に節度と説得力をもたらしている)
 そー解釈していくと、コクランとマーフィーのヘリ同士によるタイマンバトルで、ロスの街並をベトナムのジャングルに見立てているバダムの演出は、ある意味実に見事なデレクションと言えるだろう。
 しかもご丁寧にマーフィーを被弾負傷させ、ベトナムからの帰還直前の状況を再現した上で、コクランとの決着を付けさせるのだから、ある意味情け容赦の無い展開である(ま、ハンデを与えなきゃ、ブルーサンダーと通常の戦闘ヘリでは勝負にならんというハナシもあるが(笑))

 何にしても、当時アメリカ人のアイデンティティを揺るがせ続けていたベトナム戦争という名の悪夢――
 その悪夢との決別と犯した罪の清算こそが、マーフィ対コクランの真の意味なのだ(そう考えるとラストのマーフィーによるブルーサンダーの破壊が、実にストレートなメッセージとなって伝わってくるんだよねぇ……)

 んで、オバノンの脚本は更に冴え渡る。
 冷静に考えれば、マーフィーとブルーサンダーの戦闘力だけでは、実際的にとてもじゃないが国家レベルの巨悪には立ち向かえないのである。
 いや、立ち向かえても、勝利をつかむ事が出来なければ、この物語は意味が無いのだ。
 つまり、よくあるニューシネマ的な敗北や挫折の結末ではダメであると。

 では何が必要になるのか?
 まずは、やはりマーフィーが戦うための大儀……精神的な裏づけだろう。
 そこで用意されたのが愛する妻〜ケイトのバックアップである。
 守ろうとする人たちによる無償の献身こそが、劇中何も語らずともマーフィーの行動を正当化してしまっているのだな。
 「マーフィーは間違ってないんだよな」みたいなね、理屈ではなく感覚的に納得できるってカンジの構成で、実にお見事。
 まぁ、展開的にも、空を飛びっ放しのマーフィーに成り代わって、実働する地上部隊の存在が必要不可欠だしね(笑)

 ちなみにこのケイト――脇役ながらもただの添え物ではない、強烈な存在感を醸し出しており、この漢臭い映画にあってはまさに一輪の花(笑)
 一応、当時ハリウッドで流行りだした“戦うヒロイン”のフォーマットに準じてはいるが、何ともいえない可愛げがあるので観ていて気持ちが良いんだよね(リプリーやサラあたりは怖いだけだからなぁ…)
 で、そのケイトの目指すところが、TV局ってのもなかなかに興味深い。
 政府の謀略を暴く証拠ビデオを、知人のジャーナリストに渡そうとするんだがね。
 現実のアメリカ社会がどーなのかは知らないが、少なくともバダムやオバノンはジャーナリズムを“国家権力すら介入不可能な聖域”と考えているようなんである。
 ま、物書きとしては「ペンは剣より強し」なんだろうし、そうあって欲しいという願望なのかもしれんが(劇中では時間的な面で暴露に間に合った、という風にも取れるから、どっちにせよ問題は無さげ)

 細かいところだが、ケイトがビデオを渡そうとするジャーナリストって、序盤にTVモニターで一瞬だけ確認できるんだよね。
 ほんのチョッとしか出てこないのに、あまりにインパクトのある“頭”をしているので、「あ、あの時の…」って具合に即効で判るのだ(笑)
 つまり混沌としたTV局において、このデカ頭が連邦警察の回し者ではなく、ホンモノのジャーナリストだと言う事を、説明抜きで瞬時に観客へ伝える演出にもなっているんだよ。
 こういったところは、まさにバダム演出の職人芸だよな。
 しかしこのジョン・バダム、皆さんご存知の通り、いわゆる“職人監督”としての評価が一般的なんだがね。
 実は 上記した“ベトナムのジャングル=ロサンジェルス”みたいに、何気に表現的なこだわりを持つ監督さんでもあるのだ。
 というのも、今回DVDを観直して、個人的に「おおっ」ってな発見がいくつかあったのだな。

 例えば、マーフィーのブルーサンダーにケイトがビデオを掲げるショットが、何気に「妻(市民)が戦う夫(ベトナム帰りの警察官)にエールを送る図」に見えたりするのだ。
 んで、その対の意味合いを持つ映像として、ブルーサンダーを追撃するコクランの戦闘ヘリを、たなびく星条旗と一緒のショットに収めたりしてな(笑)
 バダム監督、なかなかにナイスなセンスをお持ちである。
 さりげない演出なんで、何となくスルーしがちではあるが、こういった細かい表現が全編に渡って散りばめてあるのよ。

 ――とまぁ、とにかく巨大な権力と戦う一人のヘリパイロットの物語を、これでもかってぐらいに緻密なディティールと意味深いシチュエーションで描いていくのである。
 結果、観客にもたらされるのは、一つの透徹な正義の勝利であり、鬱屈した中年男がトラウマを打ち破り、孤高のヒーローへと成り上がる事への、例えようも無いカタルシスなのだ。
 加えて最高・最強のマシーン“ブルーサンダー”を、その廃棄も含めて自由自在に扱う事への高揚感――
 これまさに、極上のエンターティメント!
 このブルーサンダーという映画で、オバノン脚本とバダム演出は絶妙なコンビネーションを発揮したとも言えるだろう。

 加えて役者陣も恐ろしく渋い、イブシ銀なラインナップである。
 マルコム・マクダウェルのエキセントリックな悪役ぶりもサイコーだし、ウォーレン・オーツのアクの強い演技もこれまた素晴らしい!(こんなにサングラスが似合うオッサンは、そうはいないよ。この映画が遺作となったのは非常に残念)

 とりあえず昨今のCG全盛なハリウッド映画では味わえない、本物のアクションだけが持つ、異様な臨場感が体験できるのは間違いない。
 ブルーサンダーのマシンとしての存在感。
 ロス上空での、今となってはありえないロケーション。
 癖は強いが味のある、実力派俳優陣(若干、華がないかもしれんが)

 ラストのブルーサンダーを廃棄した後、悠然と歩み然るフランク・マーフィーの姿。
 バックに聴こえてくるのは、今回の事件を公表するTVアナウウンサーの声――

 何となくオバノンかっての盟友〜ジョン・カーペンター監督による、ニューヨーク1997のラストを彷彿させるシーンである。
 もしかしてこのフランク・マーフィーって、オバノン流スネーク・プリスケンなのかもしれないね。
 ちと深読みが過ぎるかもしれんが、ま、こういった推察も映画のお楽しみの一つって事で(笑)

                             

 それでは……     Catch you later ! (また今度な)




2006年8月1日(火) 


やっとJAFFOの意味がわかったよ。ドジな航空偵察員だろ?
Great scene select


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