機動戦士ΖガンダムⅢ 星の鼓動は愛

機動戦士ΖガンダムⅢ 星の鼓動は愛 (2006年)

- ニュータイプは刻の彼方 -

　これで遂に劇場版Ζガンダムが完結か……
　なんか感慨深いものがあるよな。

　実は今、ワタシの脳内では富野作品をトータルで捉えて様々な事が渦巻いており、これから書こうとしている劇場版Ζのレヴューも非常に取り留めの無いモノになるかもしれんので、まぁその際はご容赦を（そーいや以前書いた“逆シャア”のレヴューもムチャクチャだったな（笑））

　さて、まずシンプルな感想として書けば
　第１部“星を継ぐ者”～すげぇ面白かった。ワクワクした。
　第２部“恋人たち”～一言、ツマラン。
　第３部“星の鼓動は愛”～グチャグチャでグダグダだが、富野監督の表現したい事は実にストレートに伝わってくる、ある意味“快作”。

　――とまぁ、こんなトコかね。　
　ただどこぞの対談でもあったが「第２部は単体で鑑賞したら駄作であり、第３部を前提とするのであれば、あれはアリ」というのは、ワタシも同意。
　つか、第２部は監督的にかなり重要なテーマを見せているとさえ思える。
　何故なら、主人公たちは“実存しながら”重力の縛りの中で異性との恋を育み、絆を紡ぎ、明日への道を歩もうとしているのだから……

　で、結局ね、この劇場版Ζってのは、富野ガンダムの最終的な帰結点であり、ある意味“ニュータイプサーガの真の最終回”とも言えるのだな。
　それは第３部のあのラストシーンを見れば実に明白。

　以前、逆シャアのレヴューにも書いたのでここでは詳しく触れないが、やはり富野監督はウェイブライダーを重力から解き放たれる為の翼そのもの（＝ヒトの革新＝ニュータイプ）とイメージしていたのだな。

　で、TV放映時の富野監督は、カミーユの魂を“翼のまま”の状態で終わらせてしまった。
　ムロン、それは重力から解き放たれた魂のあるべき姿であり、そして帳尻としての肉体性の喪失である。

　ところが、今回のラストは見事な程に正反対になっているのよ。
　「戻れたっ」というカミーユの言葉の通り、成すべき事を成したウェイブライダーは、パーツを破損しながらも何とか人型たるモビルスーツ形態に戻る事が出来たのである。
　これが何を意味するのか、あまりにも判り易い表現といえよう（富野監督はインタビューで変形ロボットの描写論としてお茶を濁しているが（苦笑）、むろん額面どおりには受け取れない罠）

　それはカミーユの魂の、己の肉体への帰還であり、ナマの人間で在り続けようとする強き意志の発露なのだ。
　要は実体の無い女たちよりも、触る事も出来れば抱擁もできる眼前の女（ファ）の方が、彼にとって遥かに魅惑的なのである。
　ま、更にぶっちゃければ、ファとエッチをしたいから、カミーユは“戻って”きたのだな（笑）
　～で、裏を返せば、童貞のまま死んだカツなどは、いくらあの世でサラと判り合い仲良くできたとしても、ヒトとしてあまりに寂しすぎるというね（このカツの乗機が“Ｇディフェンサー”ってのも、何と言うかねぇ……。だって本来的に“人型じゃない”んですぜ）

　さて、ここからが重要なのだがね。
　では、この劇場版Ζで殊更に強調されている「星（地球）」とは、直接的に何を意味するのか？――である。

　“星を継ぐ者”では、ニュータイプたちの地球（重力の底）への帰還を……
　“恋人たち”では、その重力の底でおりなす恋人たちの描写を……（因みにこの“恋人たち”とはフォウやベルトーチカを指し、後半露出の多いサラは含まれていないらしいのがポイント。第１部のエンディングを思い出して欲しい）
　そしてこの第３部“星の鼓動は愛”では、ニュータイプの肉体性の回帰を……

　何となくではあるが、うっすらと見えてこないか？

　宇宙における魂の開放とは正反対の環境――
　重力に縛られながら日々を生きる＝肉体という枷の中でリアリティを持って日々を生きる。

　つまり何かしらの枷がある日常にリアリティを感じる事こそが、今作で最も重要なテーマなのだ（幕間のドラマはまさにソレ。ヘンケンとエマのやりとりなど無様ではあるが、何とも微笑ましい描写となっているのな）

　確かに観念の宇宙（そら）に翔び、思想や記憶（知識）、思考をぶつけ合う事も時には必要だろう。
　そも、人間は考える葦なのだから。

　しかし頭でっかちに過ぎてもダメなのだ。
　苦楽を共にする己が肉体のリアルな感覚を、エアが運んでくれる木々や土の匂いを、他者の温もりを、決して忘れるような事があってはいけないのである。
　至極当然の事ではあるが、理想的な“共生”とは、観念論だけではまず成し得られないのだから……

　だから富野監督は、重力に縛られた地球への帰還をニュータイプたちに促す。
　だから新作“リーンの翼”において聖戦士サコミズ・シンジロウは、バイストンウェルから現実世界へと帰還を試みるのだ（ダンバイン最終回の「人々よ、バイストンウェルへ帰還します」というシーラの号令とは、まさに正反対）

　戦うべき戦場は、夢の世界にあらず。

　――これこそ富野監督が長きに渡る創作活動を経て、漸く辿り着いた最終的な着地地点なのだろう。

　“星の鼓動は愛”

　何とも監督らしい珍妙なタイトルではあるが、“星”を“人”に置き換えれば非常に納得のできるフレーズである事がわかる。
　そして、今作における“鼓動”という言葉の持つ、極めて重要な意味性――（TV版のサブタイトル～“Ζの鼓動”とは、おそらく正反対の意味）

　つまりここで語っている“肉体性”って、アムロとララァがめぐりあった宇宙には、致命的に欠けていたモノでもあるのだ。

　んで、判りやすい例をあげるのならば――
　『コアファイターを脱したアムロが、ランチの皆に抱擁を受ける場面』をストレートに描けなかったあたりが、色んな意味で当時の富野監督の限界だったのである。

　対して、劇場版Ζのエピローグはというと――

　地上の宵闇の中、
　ミライは民家で道を尋ねるが、彼女を軍関係者と知ってか、老婆は背を向けたまま相手にしてくれない。
　いや、そういった深い意味は無く、ただ単に言葉が届いていないのか？
　どちらにせよミライは大して気にした風でもなく、車のハンドルを握り直す。

　そして画面は、再び宇宙のアーガマへ――
　カミーユとファの睦言を“通信機”で盗み聞きし（笑）、あまつさえ冷やかし半分で口頭実況するクルーたちと、苦笑を禁じ得ないブライト。

　――そこには間違いなく、ニュータイプの能力など必要としない、面倒だがどこかホッとする“日常のコミュニケーション”が淡々と描かれているのだ。

　とまぁ、このように解釈していくと、この20数年における富野作品の紆余曲折をシミジミと感じてしまったり（笑）

　何はともあれガンダムサーガの見事なオトシマエってやつを、しかと見届けさせてもらいましたよ！

2006年8月26日(土)　

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