ベターマン

ベターマン (1999年)

- 力、求めて -

ベターマンDVDボックスを、先ほど全話観終わる。

いや～、やっぱ面白かったッス。
物語を牽引する“謎”は全部知リ尽くした上での視聴だったんだが（本放映＋LDソフトと、最低２回は通して観ている）、それはそれで非常に面白く観られる作りになっているのに、ほとほと感心。
ただ回りの反応を眺めていると、“TV版ガオガイガー”的な観方を一度すっぱり取り払わないと、このベターマンは素直に楽しめないみたいなんである。
とはいえガオガイガーとの世界観共有が、この作品の魅力の一つになっているのには違いないがね（テーマ的にも陰陽の関係にある）
――全く持って評価の難しいところだ。

さて、難解な作風と一般的に評価されている、今作なのだが……
よくよく顧みれば、物語の構造自体はいたってシンプルである。

要は、人類種という一つの生命体が、己の欲望の副作用で発生したガン細胞に蝕まれてしまい、死滅寸前の状況に追い込まれているのだな。
で、それを人類自身が医療器具（覚醒人）や免疫抗体（ベターマン）でもって、自己治癒しようとする――
とまぁ、ある意味――非常に真っ当にSF的な（笑）お話なんである。

ただお話を難しく（受け入れ難く）しているのは、１話から最終話までキチンと観なければ、“作品構造”が全く理解できない点だろう。
それでなくても謎が謎を呼ぶ展開は、各キャラクタードラマの意義性が“その時点において”かなり判りづらいし、学術的専門用語のオンパレードも、物語の読解を非常に困難なモノにしているからねぇ……。

もっとも、作り手側も“その辺”には自覚的だったのだろう。
基本的にこのベターマン――“SF”というよりは“ホラー～パニック物”といった“判りやすい体裁”のものになっており、むしろビジュアル的には“巨大ロボット物”や“怪獣物”と呼んだ方がシックリくるのだな。
つまりドラマ的に不可解な点が残りはするが、その場その場では単純に燃えて観ていられる、とね（笑）

とはいえ、観終わった後――物語構造を理解した上でも、何処と無く釈然としない部分が残るのも事実。
例えば“人類の種としての欲望”＝“種としての進化”という定義が示され、進化（欲望）はベスト(到達点）よりベター（螺旋の過程）が望ましいというテーマ的な帰結には、ワカルようなワカランような非常にファジーな気分が残るし――（尊者ヤクスギのカンケル化なんて、あまりにも哀しい設定である）
何よりも物語上のヒーローたる免疫抗体（ベターマン）は、ガン（カンケル）によって死滅した細胞（アルジャーノンによる人の死）を前提にしないと存在し得ない、という表現になっているのだな（しかも食物連鎖の一環として描かれているし）
理屈ではわかるが、感情的に納得できない――っていうかさ。
まぁこの“冷酷さ”こそが、非常に“SF的”とも取れるのだが（笑）

しかしね、ベターマンという作品の魅力は、こういったハードで込み入ったテーマ性や、ロボや超人たちによる“燃えるB級エンターテイメント性”だけじゃないのだよ、うん。

やはり最後は、描き出されるキャラクターたちと、そのドラマ性の魅力に尽きるのだ。

「苦しい」「辛い」「寂しい」「痛い」「怖い」……
センシティブで内省的な描写をしながらも、キャラクターたちは皆必死になって日々を生きている。

ヒロインの彩火乃紀などは、数年前に家族全員をインド・アジャンター仙窟で失っており、若い身空でまさに天涯孤独な生活を送っているのである。

で、彼女は日々の生きる目的に、行方知れずな家族の捜索を掲げつつも（とはいえ火乃紀自身、家族がいまだに健在だとは思っていない）、現実は謎の奇病“アルジャーノン”を巡る謀略戦に巻き込まれ、覚醒人１号のヘッドダイバーとして戦い続けるしかないのである。
結局、“何も出来ずにいる自分”を「ワタシ、バカだから」の一言で沈殿させ、終日俯き加減に“鬱の表情”を見せ続けるのが、彩火乃紀という少女なのだ。
そんな彼女にとって唯一救いだったのは、転校をきっかけに偶然再会した幼馴染～蒼斧蛍太の存在だろう。
蛍太が実は卓越したデュアルカインド（ニューロノイドの操縦が可能な者たちの総称）である事が判明し、覚醒人のヘッドダイバーとして火乃紀のパートナーになるのである。
以降、底抜けに能天気でお調子者の蛍太は、常に火乃紀の傍にあって、彼女に良くも悪くも多大な影響を与えていく事になるのだ。

特に度重なる戦いに心身ともに疲れきってしまい、生きる気力すら失いつつあった火乃紀に対して、「こら、てめぇ、死ぬんなら１人で死にやがれ。オレを巻き添えにすんじゃねぇ！」――と活を入れる蛍太は、普段の彼からはとても想像できない“男らしさ”に満ち溢れ、その結果火乃紀を問答無用で立ち直らせてしまうのである。
――何ツーか、今時にしては珍しくカックイイ表現だよな、こういうのってさ（笑）
しかもこれ以降、火乃紀は蛍太にマジ惚れしちゃうみたいだし（鎌倉デートの約束も、この直後である）
ちなみにこの蛍太――もう１人のヒロイン～紗孔羅に対しても随分と影響与えており、そのチンケなルックス（笑）の割には実に“主人公らしい主人公”として描かれているんだよな（ベターマン～ラミアはヒーローであって、主人公にあらず）

そうそう、この紗孔羅ってヒロインも実に不憫なキャラでねぇ……

生まれ付いての“リミピッド・チャンネル”能力者（ぶっちゃけエスパー）でさ、世界中の人たちの意識が半強制的に彼女の脳内へと送り込まれてしまうのである。
彼女の能力を知っている人は「彼女に自分の意識を読まれてしまう」と警戒するから、傍に寄り付かなくなってしまうし（彼女に同情的な火乃紀ですら、そうなのだ）、他人の意識を読まされる紗孔羅の方もたまったものじゃない。
彼女は幼いながらも、人間の暗部も含めた“全てのココロ”を見知っているのだ。
そこへ現れたのが、能天気で裏表のない蛍太である（彼は思春期の男子が一番恥ずかしがる――つまり隠したがる“性的な欲求”ですら、非常にオープンなスタンスで振る舞うのだ。うまいキャラ演出だよなぁ）
彼の紗孔羅に放つ陽性の気分は、随分と彼女の精神の傷を癒したようである。
紗孔羅は嘘をついてまで（自分の為に）蛍太を引きとめようとするし、生まれ付いての虚弱体質をおして蛍太の力になるためにダイブスーツに身を包み覚醒人に搭乗したりするのだ。
健気な少女であるよ、うん。

しかしその蛍太にも物語のキーとなる重要な秘密があり、火乃紀や紗孔羅が安定を取り戻していくのと反比例するように、彼自身はひどく情緒不安定となっていき……
そんな状況においても、彼は火乃紀のナイトである事を辞めようとはせず……
遂には最終決戦の地～モーディワープ本部の地下～海底において……

「火乃紀、死ぬのか……俺たち……」
「ワタシは死んだらアニムスの花になるの……そしたらアタシ、お兄ちゃん（ベターマン）に食べられて……きっと、蛍ちゃんを……助けてもらう……から……」
「…火乃紀……火乃紀……」

――名場面だよ～あうううう……マジ泣けるッス……

その他にも～都古麻御・阿嘉松のオヤジ・八七木翔・紅楓・ヤマジイ・リッちゃん～といった非常に魅力的なキャラが多数登場しており、ここで全員の魅力を書き出したら物凄い事になっちまうので、個別のキャラ紹介はここまでにしておきます（笑）

ま、敢えて印象的なエピソードを挙げるとすれば、ハイウェイのトンネル内で、コントレーラーごと精神の迷宮に迷い込む“第19話・鏡-ituwari-”でしょうな。
世界有数のダウジング能力者である楓を拉致しようとする敵～㈱超人同盟が、ウォーターフロントに向かう阿嘉松たちに超能力者を使った精神攻撃を仕掛けてきたのだ。
永遠のトンネル内を疾走するコントレーラー内で、もう１人の自分に糾弾される阿嘉松たち――
普段は心の奥底に沈殿させてある醜いコンプレックスを、何の躊躇いも無く表層化させながら、情け容赦なく自分を攻撃してくる、もう１人の自分。

コントレーラーの外では、彼らを救出に来たベターマン～ラミアも同様の攻撃を受けていた。
「力も互角、知恵も互角……ならば答えは一つ、自らを越えるのみ！」
そう呟くも、やはり傷つけあうだけで、微塵も決着が付きそうな気配がない。
ラミアは考え方を変えてみる……
「どうやって己に勝利する？　いや、勝利する必要など無い……我らは共生すべき存在……」

もう１人の“嫌”で“怖く”て“恥ずべき”自分自身を素直に受け入れた上で、ポジティブに生き方の指針を決めていく――
阿嘉松、八七木、楓、麻御、そして――紗孔羅。

思い切り自分の存在を否定し、罵詈雑言の限りを尽くす“もう一人の自分”を、紗孔羅は抱きしめキスをする。
「ありがとう……私に“自分の言葉”を、こんなに沢山聞かせてくれて」
――ああ、背中がゾクゾクしちまうよ（笑）
岩男潤子さん、グッジョブ！

とまぁ、長々と書いてきましたが、とにかくこのベターマン――
SFとしても、ホラーアクションとしても、そしてキャラクタードラマとしても、非常に完成度の高い、大傑作でございます。
キムタカ氏のキャラも異様にフェロモンを放出してますし、山根氏のデザインワークスと原型士の竹谷氏によるクリーチャーも最高にカッコイイ！
とにかくガオガイガーのイメージに囚われずに、素直に、真正面から受け止めて欲しいッス（笑）

しかも１度目よりも、設定を把握して鑑賞する２回目の方が絶対に面白いからさ。
何とか、そこまで頑張って欲しいなぁ……

う～む、やはりハードルが高い作品だ（笑）

2005年8月30日(火)　

Great scene select

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