君みたいなのは1人と思っていたが……間違ってた

X-メン 2 (2003年)

- ミュータント戦争、勃発! -

 昨夜、ついに待望の『X-メン2』を観てきた。

 結論からいえば――、すんごく面白かった!

 事前にotsueくんから、前作にあった叙情性がかなり希薄だとは聞いていたし、実際『そういう』部分は確かに見劣りする。
 が、しかし集団劇としてのシナリオといい、テーマに忠実な構成といい、意味深で美しい映像といい、正直よくここまで作りこんであると感嘆する事しきり。
 ブライアン・シンガーって監督は、マジ只者じゃないっす。
 さて、何から褒め称えよう?(笑)

 とにかくあれだけの登場人物がいるのに、その全てが魅力的に隙なく描写されているのが素晴らしい!

 前回から続く『プロフェッサー』VS『マグニート』の図式の中に、新たに現人類(旧人類?)の象徴的人物『ストライカー』が乱入するのだが、この人物がなかなかに意味深な設定だったりする。
 ま、映画的にはヒールな役どころなんだが、息子が幻覚を見せるミュータントであったり、そのせいで妻が自殺していたりと、かなり悲劇的な人物でもある。
 そんな理由でミュータントに対してはかなりの敵意を抱いており、その怨念はミュターントの生体改造を繰り返し己の道具として支配下に治める事で昇華していたらしい。
 ウルヴァリンもどうやらその犠牲者らしいし(これにはまだ不明な点も多い。むしろストライカーの協力者だったフシもある)、息子のジェイソンにいたっては、ミュータントたちを意のままに操るための道具として利用されている。
 つまり「ストライカーがジェイソンを道具に貶める」という図式が、そのまま旧人類と新人類(ミュータント)の関係にフィードバックするのだな。
 簡潔に言えば、「親が子供を道具として利用する事によって、子供の存在そのものを否定する(殺す)」という事。
 そしてそれを直前で察した子供たち(ミュータントたち)が、逆に自分たちの生まれ出る土壌となった存在である親そのもの(現人類)を殺そうとする――つまり『親殺し』こそが、この映画のクライマックスであり、否定すべき物語の根幹でもある。
 これは前作で描かれていた『ローグの悲劇』を、もっと推し進めた形ともいえよう。
 『アイスマン』も実際、実の弟に捨てられるワケだし……血を分けた存在からの決別――つまり『個』による共同体の形成へと続いていくのが、この物語の本筋なのかもね(ミュータントの能力に共通性があまりない事も、その裏付けか?)
 そしてその親殺しを積極的に成そうとしているのがマグニート一派であり、平和的共存を望んでいるのがプロフェッサー率いるX−メンなのである。
 ただこの二つの派閥は根本的な部分において全く持って同質であり、ミュータント全体が危機に晒される事態になれば、今回のように共闘することもやぶさかではないのだ。
 炎の能力を持つX−メン『パイロ』はマグニートに感銘を受け彼と共に歩む道を選ぶし、氷の能力を持つアイスマンはローグと共に『学校』に残るのである。
 これらの表現は、両者の能力の性質も含めてかなり象徴的である(一緒に映画を観た友人は「俺だったらパイロと同じ選択をする」と言っていた。俺は、というと……さてさて?(笑))
 あと印象的な描き方と言えば、やはりウルヴァリンのテントにジーンの姿で夜這いするミスティークだろう。
 結局ウルヴァリンにふられるようなミスティークだから、マグニートと一緒に行動するんだろうしね(その後Xジェットの中で仲良さげに寄り添っているマグニートとミスティークは、ウルヴァリンとのそれとかなりキツイ対比になっている。それを横目で見て物怖じせず二人に話し掛けるパイロ少年も、かなりイイ)
 ま、ミスティークに迫られたウルヴァリンの気持ちが観ている我々にも痛いほど解るところが、この映画のひどく残酷なトコでもあるワケで……

 それとテレポート能力を持つ新キャラ『ナイトクロウラー』も、ミスティークとの対比を含めて存在感バリバリである。
 まるで悪魔そのもののような姿に全身刺青を施した、漆黒の男。
 一度はストライカーに操られ大統領暗殺未遂を起こしてしまうが、通常の彼は元サーカス団員の人の良い、愛すべき人物。
 慈悲深く、思慮深い。
 ミサイル攻撃でローグがジェットから墜落しそうになったとき、自身の危険も省みずテレポートで救出するし(実際に見た場所でないと、テレポートはかなりの危険が伴うらしい)、クライマックスにおいてはストームと共にプロフェッサーの元へ命をかけて跳躍する。
 人間を愛し、そしてミュータントである自分もあるがままに受け入れる。
 そんな彼だから、その異形の姿であってもストームに「美しい」と感嘆の言葉をはかせるし、僅かながらも心を通わせる事が出来る。
 凍えてもいいから、最後までストームの傍にいるといった彼。
 ジーンの危機に何も出来ずに無念の言葉を漏らす、彼。
 そして死に逝くジーンに1人、哀悼の言葉を投げ掛ける彼。
 ――そんなナイトクロウラーの振舞は、ミスティークと同じようなハンデを持ちながらも、完全に正反対のモノである。
 確かにミスティークは強靭な身体能力を持つ。
 しかしその精神においては、彼――ナイトクロウラーの方が遥かに勝っているのだろうな。
 あとウルヴィー、ジーン、サイクロップスの三角関係といい、ローグとアイスマンの(ウルヴィーも微妙に影を落とした)関係といい、よくも1本の映画にこれだけのドラマを盛り込んだものである。
 しかもそれぞれが実に印象的なエピソードとして成り立っているし……マジ凄すぎっす。

 シナリオ構成も実に巧妙で、シャレが利いている。
 例えばウルヴィーの冷蔵庫のビールエピソード――2回目の時、他人の家にも関わらず迷わずビ−ルをあおるあたり、説明なしでも笑えるもんなぁ。
 直後、その情けない姿を帰宅したアイスマンの家族に見つかってしまうし、どうみても体育会系なルックスは『美術の先生』発言も説得力まるでナシ(笑)
 他にも、サイクロップスのバイクガス欠にRX−8のキーぶっ壊し、携帯電話に慣れていないウルヴィー、猫に舐められるウルヴィーの獣性……など等、ホント細かい描写が途切れなく続いていく。

 他にも、シートベルトすら満足に装着できないローグが、皆を助けるためにXジェットの操縦桿を握ったり――
 ローグとキス一つ出来ないとぼやいていたアイスマンが、意を決して実行に移し、案の定ヘナってローグにごめんなさいされるし――と、こんな感じで実に小気味良くシーンが続いていくのだ。
 いや、観ていて実に楽しいよ、ホント。

 そうそう、やはりこの監督ならではの映像表現にも、触れなきゃなるまいて(笑)
 例によって、何処もかしこも凝った映像だったりするのだが、特に印象深い箇所は二つ。
 一つは日系人女ミュータントの最後……アダマンチウムを体内に注がれ、絶命するくだり。
 ストライカーによる洗脳がとけ、その瞳が正気を取り戻した一瞬後、彼女はアダマンチウムの涙を流しながら絶命してしまう。
 美しく儚く、そしてグロテスク。
 その女ミュータントの例えようもない悲劇が、水槽に遺体が着底する際の「ゴンッ」という、間の抜けたどこかコミカルな金属音と共に、最後の幕を閉じる。
 ――この一連の映像の凄さよ。
 僅か数秒にも満たないカットの連なりが、ズシンと心に残ってしまったよ。
 次に外せないのが、クライマックス――大統領の目前で闇と共に浮かび上がる、X−メンたちのショットだろう。
 周囲の時間が静止し、光すらも動きを止める。
 “普通の”記者たちがズラっと並ぶ中に紛れつつも、まるで当然の如く立ち並ぶミュータントたち……(そう、大統領の眼前に居る彼らは、みな等しく合衆国国民なのである)
 無意味な暴力は行使しない彼らX−メンでも、その放つ凄みのオーラ(ガンつけ、とも言う)は、大統領にとって圧倒的な威嚇となってしまうようだ。
 それは追い詰められた者たちの焦燥でもあり、ギリギリの意思表示でもある。
 この時の大統領の返答しだいでは、おそらく彼らX−メンもマグニート一派と同様の対応をする羽目になるのだ。
 どちらに転んでもおかしくない――そういった覚悟。
 闇の中で悪魔(ナイトクロウラー)も親しげな笑みを浮かべながら、大統領に知己の挨拶をしてくる。
 ストライカーに操られていたとはいえ、暗殺未遂は全く持って『偽りの行為』だったワケでもないのだ。
 ホワイトハウスに掲げられたリンカーン大統領の肖像が、今ここで真価を問われる――。

 ――そして物語は、一旦平穏を取り戻す。

 しかし悲しみが広がっただけで、以前と何一つ変わっていない――いや、むしろ状況は悪化したともいえる。
 結果的に、マグニートはシャバに戻ってしまったワケだしね。
 ウルヴィーは胸の中に抱くミュータントの子供に己の存在意義を託すと、ストライカーに語る。
 しかし一方で――
 幼少のおり気弱で自分に自信が持てなかったジーンが、大人になり強固な意志の輝きを勝ち得た瞬間、その命を無残に散らしてしまっている。
 そういった世の中の無常さに、サイクロップスとウルヴィーは大きく打ちのめされてしまう。
 つまりこれから訪れるはずの未来にも、希望と絶望の両方が、同等に存在するという事なのだろう。

 マグニートとプロフェッサーの愛読書は、同じT・Hホワイト著『永遠の王』――それは平和を望みながらも戦い続ける運命にある、かのアーサー王物語。
 そしてジーン……彼女は原作どおりなら、フェニックスとして……ごにょごにょ。
 湖のラストショットも、意味ありげだったし……

 ああ、早くパート3が観たいよ(笑)
 勿論、同じスタッフ、キャスティングでね〜 頼むよ〜

2003年5月26日(月) 



カート、今からこの中凄く寒くなると思うけど……
Great scene select


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