十兵衛ちゃん・ラブリー眼帯の秘密

十兵衛ちゃんラブリー眼帯の秘密　(1999年)

- 無刀のココロ -

　始まった当初はね、全然のれない作品だったんだがね～。
　気が付いたら中盤以降、ずっぽりハマって前のめりになって観ていたわけだからなぁ。

　で、今週最終回を迎えたその作品――
　“十兵衛ちゃん②～シベリア柳生の逆襲”と、その前作“十兵衛ちゃん～ラブリー眼帯の秘密”について、今回と次回の２ページに分けて書いていこうと思います。

　そもそも前作～“ラブリー眼帯の秘密”は個人的に大好きな作品だったのだな。
　少なくとも、LDソフトを全巻揃える位にはね（笑）

　大地監督特有の破壊的なギャグのビートにのせて、時代劇のパロディーを織り交ぜながらも、どこかしら危うさが漂う父娘関係を軸に、１人の女子中学生の青春を描いていく“変身美少女戦士”モノ――
　まさに笑いありに涙あり、といったエンターティメントの王道を行った作品で、出演声優陣の好演もあり、登場キャラクターたちも実に魅力的に描き出されていた。

　主演の小西寛子嬢の演じる菜ノ花自由こと二代目柳生十兵衛などは特筆すべき存在感を持ち、他の追随を許さない孤高のオリジナル性を保持していたのである。

　「わたしは便器～♪」と、トトロの替え歌を口ずさみながら、オマル仮面で自転車登校をする十兵衛ちゃん――
　こんな無茶な状況（笑）を、正統派ヒロイン（視聴者側の憧憬の対象として）の範囲内で難なく演じきっていたのだからねぇ。

　ま、中盤以降の父親～菜ノ花彩と自由のやりとりは、父親側からみて異様にリアルな感触で描かれており、その限りなくエゴイスティックな生々しさは、それこそ頻繁に挿入されるギャグ抜きじゃ、観ていて正直キッツイものがあったのも事実だ。

　しかし親から子へ命がけで伝えるべきモノ……子が親から真摯に授かるべきモノ……といった図式は、十兵衛と二代目十兵衛の関係にフィードバックしていき、その太刀筋は長年闇に囚われてきた龍乗寺一族を救う事になるのだ。

　そして物語の本筋でもある柳生新陰流と龍乗寺新陰流の時空を超えたバトルも、龍乗寺醍醐の怨霊が四郎に取り憑く事によって、過去から現代に蘇る“タタリ”としての側面が明確化する。
　つまり過去の怨念が、現在の我々の生活を縛り、苦しめていく――そういった図式である（ま、中東情勢なんかを顧見れば、実にリアルなテーマではあるな）

　その怨念の連鎖～300年も続く悲しき憎しみを、十兵衛ちゃんの柳生新陰流奥義――名づけて柳生無刀取りが見事に断ち切って行く。
　無刀、つまり武器の放棄こそが、柳生流の極意（争いを断ち切る極意）なんである。
　何とも王道なお話でがしょ（笑）
　無論、甘々な理想論に過ぎないのだろうがね～
　でもこの十兵衛ちゃんの物語って、所謂ヒーロー（つーかヒロイン）物なんだからさ。
　もう全然オッケーでしょ、うん。

　で、その健気なヒロインを見守るムサイ野郎たちも、これまた非常に良い。
　いや、ま、全員十兵衛ちゃん大好き人間なんだがな（笑）
　後半はほとんど天草四郎（笑）だった悲運のヒーロー、龍乗寺四郎（兄）はともかく――
　やはり自由と同じ中学の番長グループ～通称“バンカラ・トリオ”が、ダントツに存在感があったっス。

　実は忍者な大猿・小猿に、その情けない“オヤビン”こと三本松番太郎。
　この番太郎という独特なキャラクターも上田祐司の弾けた演技もあってか、メチャ魅力的なコメディリリーフとして描かれているのよ。
　しかもこの普段はお馬鹿なキャラが、時折り真面目な横顔を見せたりするもんだから、当然観ている側としてはたまらなかったりするのだ。

　特に興味深いのが、番太郎が最後に自作の歌で戦いを止めようとする件である。
　無論如何にも彼らしく“場の空気を読んでないギャグ”として描かれてはいるが、コレってヨクヨク考えれば、実は“柳生無刀取り”と本質的に同じなんだよね。
　戦い終えた十兵衛ちゃんの「オヤビンの歌も聞こえていたよ」という台詞もその裏付けだと思うし、個人的にもかなりクルものがあるんだよなぁ。

　そして忘れちゃならないのが初代十兵衛の時空を超えた使者（と言えばかっこいいが、根性だけで300年生きながらえてきたゾンビ……いやいや、死んじゃいないから何といえば良いのか……干物？……う～む）こと、小田豪鯉之介である。

　武芸の腕は番太郎以下……しかも気が弱く、おまけに天性のドジ野郎。
　しかし二代目柳生十兵衛を探し出すという目的の為に、必死になって300年間も未来を歩んできたのである。

　これもまた興味深い設定なのだ。
　普通だったら前述した龍乗寺醍醐のように、ただ初代十兵衛の幽霊を登場させて二代目にメッセージを送れば済むことなのだ。
　では、何故わざわざ生きた形で鯉之介は菜ノ花自由と出会ったのか？

　これは、もちろん醍醐の怨霊に300年間縛られ続けてきた龍乗寺一族と対になっているのだろうし、悪しき怨念の類の反意語を体現しているのだろう。
　そして、その連綿と生き続けたひどくプライベートな想いこそが、この作品のメインテーマでもあるのだ（ま、此処でオレが思っている事を書いちゃうと何か軽くなりそうなんで、詳細は避けるけどな）

　ただこの物語は、ちょっぴり悲しい終わり方をする。
　龍乗寺の怨念を全て断ち切り、二代目柳生十兵衛としての使命を無事果たした菜ノ花自由――
　それは同時に、ずっと彼女の傍にいた鯉之介との別離をも意味していたのだ。

　無事役目を終えた事により、初代十兵衛と共に朝焼けの中を静かに昇天していく鯉之介。
　――が、皮肉な事にその瞬間になって、自由はやっと鯉之介に対する自分の気持ちに気付いてしまう……
　もしかしたら、それは彼女にとっての初恋だったのかもしれない。
　しかし恋を自覚した時にはもう失恋……やるせねぇよなぁ。

　「ござる……じゃ、ねぇーっ！！」
　自由の慟哭が、切なくも無情に大空に響き渡る――

　嗚呼、ええシーンだよなぁ……

　とまぁこんな風にかなり思い入れのあった前作――十兵衛ちゃん～ラブリー眼帯の秘密なのである。
　その続編ともなれば、期待もあるが、不安も余計に膨らんでいくものだ（笑）

　果たして“十兵衛ちゃん②～シベリア柳生の逆襲”の、第一話のオンエアを観た感想というのが――

　　　　　　　つづく（ちゃんちゃん）

2004年4月2日(金)　

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